「その街のこども」
10年前のとある日曜日、夕方にはまだ少し早い時間。
何の気なしにTVのスイッチをつけると、画面にはバラエティ番組などでよくみかける若い女性タレントが画面に映っていた。
その女性タレントは、薄暗い居酒屋のような場所で煙草を片手にテーブルを挟んで向かいに座っている男性となにやら話をしている。
煙草の煙を燻らす女性タレントの姿があまりにも自然で、きっとドラマではなくドキュメンタリー番組の類いだろうと思った。
どうやら話し相手の男性もテレビや映画で活躍している若手俳優のようだ。
よくわからない設定の2人の役者の姿に惹きつけられ、私はなんとなくその場から離れがたくなってしまった。
テーブルの前で立ったままだったので椅子に腰かけ、画面の中の2人の成り行きを正面からちゃんと見ることにした。
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エンディングシーンの時には窓の外はすっかり暗くなっていた。
私は、居酒屋にいた2人と共に、夜から明け方の神戸の街をひたすら歩いたような錯覚に陥っていた。
これが私と「その街のこども」との最初の出会いだった。
「その街のこども」は、2010年1月17日深夜にNHKで放送されたテレビドラマだ。
私が日曜日に見たのは、その年の5月に再放送されたときのものだった。
その後、劇場版として映画化されDVDにもなっている。
このドラマは阪神淡路大震災をベースに作られている。
主人公の2人は「震災の中心(にいた人々)」ではなく「その周囲(にいた人々)」
そんな2人の震災後の言葉にできずにいた苦悩にまなざしが向けられる。
シンプルなロードムービーである。
構成も演出も出演者も、すべてが見事としかいいようがない。
震災の話ではあるけれど、震災云々関係なく、真冬の夜空の下をひたすら歩きながら話す2人の姿に、人と人の間にしか成り立たない「何か」があることに気づかされる。
そして、それがあるから、どんなことが起きたとしても、私たちはまた歩き出せるのかもしれない、、、。
「その街のこども」
脚本:渡辺あや
音楽:大友良英
監督:井上剛